夢     塔野夏子


雨の朝
図書館にいる夢を見て目ざめた
棚に並ぶ本たちはどれも魅惑的だったが
なぜか 手にとることはせず
背表紙ばかりを眺めていた

図書館に入る少し前に
あのひとに会った
うつつにはおそらくもう会うことはないあのひとに
私はただ とまどうばかりだった

もし仮にうつつで あのひとに会っても
私はとまどうばかりだろう……

雨が窓を打つ
あれだけ魅惑的だった図書館の本たちのタイトルも
ひとつも憶えてはいないのだった