夜の散歩       塔野夏子


今夜の空気はまるで
夢の粒子が拡散したコロイドだよ
深緑の空に
タンジェリンの月がのぼってくるよ
ざわめく街を書き割りにして
川沿いの径を歩こう
とりとめなく 言葉を交わしたり
とりとめなく 黙ってみたりしながら

何かを知りすぎていて
でも何も知らない歪(いびつ)な僕らだけど
今はただ歩こう
川面にゆらめく灯りを見ながら

歩こう
この時空が知らないうちに
やわらかくカプセルされて
そのカプセルが透明な大きな手のひらに守られて
だから僕らこのまま
いつまでもうっとりと歩いてゆけるそんな気持ちで
歩こう

もう少し歩いたら
遠くに小さく
とりどりの灯りにふちどられた観覧車が
見えてくるはずだよ