夜明け前の散歩    塔野夏子


目がさめて
目がさえて
部屋をぬけだした
静まりかえった道を
ひとり
歩いてゆくと
両側に
過ぎた日の情景が
見えてくる
いやそうではなく
過ぎた日々そのときどきに
こうありたいと望んでいた 希っていた
けれど叶わなかった情景が
見えてくる
つぎつぎとあらわれては
ゆっくりとうしろへ
消えてゆく
けれど
胸のなかは
ふしぎとからっぽで
すこしつめたい風だけが
吹きぬけてゆく
静まりかえった道
もうだいぶ歩いた
そろそろひき返そう
帰りつくころには
すこし明るく
なりそうな