優しい夜       塔野夏子


優しい夜だ
君の指さきに光の環が灯る
心の奥の方で
いつか還りたい場所のイマージュが
やわらかく広がってゆく
其処へ君をも連れてゆけたなら
そう思うと
すこしだけ泣きたいような気持ちになる

緑の樹々
水辺
そぞろ歩く小径
きっと今よりもっと
優しかった僕

其処へ君と還れたなら と
口には出来ない僕の前で
君は指さきに光の環を灯したまま
しずかに 微笑んでいる