病んだ春       塔野夏子


病んだ春がせまい庭の片隅で
青ざめて弱々しい翅ばたきの音をさせている
だから
溜息しか出ては来ない

通りの向こうの古びた窓には
どこか見憶えのある白い顔
うすら笑っているような
うすら泣いているような

凭れているこの窓には
得体の知れない小さな影がいくつも
ちらちらととめどなく縺れ戯れている
眩暈のように

長い午後だ

ああ
裏切られるには良い頃合だ
どうせ
溜息しか出ては来ない

通りの向こうの白い顔にも
見憶えなどあろう筈もない
それにあの顔は
笑っても泣いてもいやしない
ただ
倦んでいるだけだ