嘘 塔野夏子 *「TILL」(新風舎)1号 黄昏詞華館掲載
花吹雪にするのなら
薄紅の手紙より蒼い手紙を
君はそう云った
だけどあのとき僕は
引き裂いてゆくごとにそこから血がしたたる
そんな気がしてた
すべてはなにごともなかったように
風にさらわれて
散っていったけど
同じ窓に
君がさいごに落としていった嘘
のような
月が欠ける
抽斗の底の薄紅の手紙
もう二度と読み返せない
胸からきっと血がしたたるから
そして僕はいま
蒼い花びらがゆっくりと降りつもる
深い海の底に
横たわる
もうじき
月の光もとどかなくなるだろう