手 紙        塔野夏子


君に手紙を書く
やがては君の手で触れられひらかれる紙のうえに
君の眼にたどられる文字をひとつひとつ
生み出してゆく

黒いインクはいつもより艶めきはしないか
生み出される文字たちはみずみずしい蔓草のように
優美さを帯びはしないか

綴る言葉はただ淡々と
けれどその中に
この胸に咲きやまない花の香が宿りはしないか

この手紙が君の眼に手に触れるときに
言葉のあいだからひそやかな想いが
陽炎のようゆらめいて立ちのぼりはしないか

遠いのに
書きすすむほどにあざやかなのだ 私には
この手紙を読む 君のすがたが