すずらん 塔野夏子
青くしずかな夜がある
その夜の底で
灯るようにすずらんが咲いている
どこからか
白い衣装のバレリーナがあらわれる
青い夜に透けそうな その手足 くびすじ
彼女は踊りはじめる
なにも聞こえないのに
可憐な旋律が流れているかのように
すずらんたちのあいだを
彼女に見とれていると――
なぜかふと思いだす よく似た青い夜
ほのかに浮かぶ窓辺で交わした
かなしく淡い接吻のことを
それはまるで夢であったかのように
――いつしか 彼女の姿は消え
すずらんだけが 灯るように
青くしずかな夜に 残されている