早春の人       塔野夏子


浅緑の湖面
小さな桟橋
早春の人を待っている

早春の人は その瞳に
かなしみともさびしさともつかない色を湛えて
けれどしずかに
微笑んでいるだろう

私たちは連れ立って
歩きだすだろう
どこか伏し目がちな言葉を短く交わしながら
少し冷たい風の中を

遠い日言葉なく交わされたひとつの約束が
互いの内にまだ在ることを
胸の内でひそやかに感じ合いながら

やがて私たちは見るだろう
あの墓地のめぐりに
今年もまた菫の花が咲いているのを