初冬景 塔野夏子 一人歩いている 黒いコートと黒い帽子で歩いている 頭上には灰色の雲たち その隙間には淡い水色の空 そしてなかぞらに いくつかの手がある やや灰色がかったような いくぶん透きとおっているような それらの手たちは 互いに 手わたしあっている うつろなたしかさ あるいは たしかなうつろさ とでもいうべきものを 灰色の雲たちは ゆっくりと動いている かすかに雪の匂いがする