ノックする人      塔野夏子


街はざわめき
川は流れ
そして扉をノックする人がいる

麦色の陽がのぼり 陽が沈み
灰色の月がのぼり 月が沈み
そして扉をノックする人がいる

誰かが私の扉をノックしているかもしれず
私が誰かの扉をノックしているかもしれず

炎えにじむ夕暮れに
青ざめた夜明けに
扉をノックする人がいる

もしかしたら
誰もが誰かの扉をノックしているのかもしれず

道は続き
季節はめぐり
そして扉をノックする人がいる

ためらいながら
あるいは怯えさえしながら
けれどとどめがたい思いにかられて
扉をノックする人がいる