願い        塔野夏子


いま 君はどんな気持ちでいるのかな
僕のほうはもう
かなしみもさびしさも
すっかり透きとおってしまったけれど

僕がわかれを選んだこと
君がそれを受けいれたこと
いま 君の心にはどんなふうに映っているのかな

そのことが君にとってひとつの
ひそやかな標になってくれたらいいと思う
君がどこまでも 君であるための
いまの僕は遠くから
そう願うことしかできないけれど

僕は頑なに僕であろうとして
君は頑なに君であろうとして
だから僕は 去ることを選んだ
いや 少しちがう
僕は君のようになりたいと
心のどこかでたぶん憧れていた
そして なれないと知っていた

でももう
かなしみもさびしさも
すっかり透きとおってしまったよ
あのわかれを経て
いまの僕はもう まぎれもなく僕だから

遠くから いつまでも願っているよ
君がどこまでも 君であるように

いま 君はどんなふうに思いかえすのかな
僕たちの日々を

僕は君にあえてよかったと
何のためらいもなく云える
だから願う 君がこれから歩む道が
あの日々の記憶を 君の心の奥に
しずかにやさしく 照らし出すように