夏について      塔野夏子


そのはじまりからすでに
鋭く亡びに縁取られているのが夏で
青空と陽射しがどれほどあかるくても
そのあかるささえ不穏なのが夏で

蝉が鳴き騒いでも
祭の喧噪が渦巻いても
濃密な静寂が深々とまとわりついているのが夏で

だからもう 夏には何も考えない というのは
あるいは正しいのかもしれない

夏はそれとしてひとつの結界だから
何処までも行けるようで
何処までも行き止まりで

夏はどうしようもなく身体を侵犯してくるから
私 あたし 僕 俺
一人称さえ定まらなくなるもので

――夏は長い けれど本当の真夏は束の間

結局 毎年
夏に魂を売り渡すしかないのだな