森の中には     塔野夏子


森の中に何があるか僕は知らない
ただ どこか不穏なざわめきと
翳りを帯びた予感を
感じているだけ

手をつないだまま
迷い込んでゆく
そしてもう戻れなくなる
そんな夢をよく見た
湿っぽい匂いが
夕闇せまるとよけいに立ち籠め
僕らは肩を寄せあって震えていた

君の大きな瞳は
それでもまだたぶん信じていた
森のまんなかには
夢のようにきれいな泉と
それを取り囲む花園があると

そんな夢をよく見た
何故だかは知らない

ただ どこか不穏なざわめきと
翳りを帯びた予感を
感じているだけ
森の中に何があるか僕は知らない