マドノソト       有邑空玖(旧・有邑廃童)


雨上がりの夏空
ラピュタみたいな大きな雲
見上げて僕は
少しだけ泣いた

あなたの運転する車の窓から
流れる景色を見るのが好きだった
町から町へ繋がる電線
古びた郵便ポストの朱色
煙草屋の軒先では
虎猫が大欠伸
車を止めてコーラを買って
海までの細い道はいつも僕の負け

夏の思い出は
窓の外を流れる景色
風の匂いと
あなたの横顔
コーラの泡

雨上がりの夏空は
どうしていつも綺麗なんだろう
窓から見る町並は
どうしてあんなに美しいんだろう

あなたとあなたの優しさは
今でもまだ
僕の掌に残っている

窓から空を見上げるたびに
思い出す

あの夏空
風の匂いと
あなたの横顔



雨上がりの夏空    塔野夏子


窓の景色を取り替えることなど
たやすいことだった
海岸も草原も森も砂漠も
思いのまま剥がしては貼り付けていた
夜も昼も雨も陽射しも
自由自在に

けれどいまは
どうしても剥がせないままの
雨上がりの夏空
その下にはあの緑の丘

   てっぺんでふたり 虹が出ないかと
   心弾ませて見あげていた
   なんてこの空は君に似合うんだろうと
   ひそかに心に灼きつけていた

ずっと剥がせないままの
雨上がりの夏空
だからマドノソトには
いつも君がいるはず
いるはず
虹をさがして

なのに何故
そこへ駆けてゆけない?
空の綺麗さを
ただどこまでも見つめるばかりで――