九月の黙示    塔野夏子


そしてまた世界は
からっぽに明るくなる
このいたずらな明るさの中では
何かを見分けることなど出来やしない

事象たちが書き割りのように
意識に貼り付く
歩きたい道を見いだすことも困難なのに
むやみにあちらこちらに
不躾な境界を引かないで欲しい

もはや信じられなくなったもの
なおも信じつづけるもの
滑稽なほど相対化された
いくつもの「絶対」
泣こうか?
笑おうか?

せめて
いちばん感じやすい小鳥たちの声が
かき消されず在るように と
祈るあてを持たぬまま
祈る
綺麗事でも
無謀でも

そしてまた世界は
底無しに暗くなる
このしたたかな暗さの中では
何かを見極めることなど出来やしない