歩行者        塔野夏子


君は歩いてゆく
お気に入りのハットをかぶって
お気に入りの傘を片手に
街の路を 野辺の道を 森の径を

誰かに出会うと
とまどったような ためらったような
微笑みと共に挨拶を交わす
そしてまた歩いてゆく

そうやって歩いてゆくかぎり
君の中では変わらない変化が
くるくると回りつづけている

時に行く手をよぎる
見慣れない小鳥のはばたきに
はっと目をみはったりしながら

そんな君とは
もう何度も会っている気もするし
これからはじめて会う気もする
街の路で 野辺の道で 森の径で

挨拶を交わして
そしてまた君は歩いてゆく
ポケットにはくしゃくしゃの地図
ひらくたびに何かが違う地図を入れて

いつもどこかから
川の音が聞こえるのを感じながら