午後の椅子      塔野夏子


どこか少しものうげな
午後の椅子に腰かける
この孤独がすこしでも優雅であるように
腕を組み脚を組む
逃げても逃げても逃げおおせはしないと
知っているけれどただ
逃げるために逃げている と
彼は云っていた
それもまた一興だけれど
ある別離が 夏にしかない距離を曳いて
まだ胸の中に在ることに気づいてしまったので
今は此処に居るより他ないだろう
意識の斜め上に貼り付いた
仮面のような微笑の輪郭をなぞってみたり
彼から届いたとりとめない
でもなんだかちょっと可笑しな手紙を
読み返してみたりしながら
けれどいつかもし逃げ出すことを思い立つなら
やはりこんな午後なのかな