劇場     塔野夏子


青ざめた喜劇役者が
陽気に痙攣している
何を間違えたのか
この照明はやけに明るすぎる

恐ろしい青空に
巨大な広告塔たちがそそり立ち
だだっ広い国道を車たちが
獣のように流れてゆく
その脇の狭い舗道を心細げにただ歩いている
小さな人物が
主役だろうか

書き割りのような見者の群れは
一様に灰色
時折そのあいだから
緑の丈高い草がすうっと伸び
また消える

工場は港のそば鈍重に居座って
もはや何も産み出しはしない
それなのに赤紫や黄みどりやらの
奇怪な煙を吐き出しつづける

夢のようにきらびやかな祭りが過ぎる
と見るまに
鉱夫はその黒ずみつくした手で
闇の宝石を探り当てていた

いつしかあらわれたコロスたち
計ったように整然と並んで
けれどてんでに違う仮面で
てんでに違う歌をうたう
しかもそこは中空だ

吊された天体たちが
溶け爛れ滴りはじめた
異様な熱い匂いがあたりに満ちてゆく

繋がれた海がもがいている
たとえ解き放たれたところで
還る処など
もうどこにも無いというのに

一面の花園のただなかで
黒いオベリスクが音もなくゆるやかに崩落し
その瓦礫の上で
青ざめた喜劇役者は
陽気に発作している

心細げにただ歩いていた
小さな人物はどこへ消えたか
いまはもう気配すらない

そもそも 幕はどこにある?
上げられるべきなのか
降ろされるべきなのか
舞台監督の笑いがチェシャ猫のように
スープの中に消えたのを見た
と思ったそれも
幻なのか

とにかく この照明はあまりにも明るすぎる