ガラスの風船     塔野夏子


いつまでもそうやって
ガラスの風船で遊んでおいで
僕はもう青い月を抱いて
眠ってしまうから
夜がやってきて空気の色が
こわくなってきてもずっとそこでそうやって
遊んでおいで

箱庭のような街だったね
忘れていたのにふと思いだした
でももういまは意味さえ失くしてしまった秘密
そんな匂いのする路地へ
迷い込んだね
街はずれの丘の方から
鐘の音が聴こえてきたね
色あせた虹色の廂のある
古びた小さな雑貨屋をみつけて
そこでガラスの風船を
買ってあげたんだったね

すっかり忘れてしまったんだろう

僕はもう冷たい星座を抱いて
眠ってしまうから
森がやってきて君のまわりを
すっかり取り囲んでもずっとそこでそうやって
遊んでおいで
さびしくなってもどうか
僕を起こさないでね