Fairy in Black 塔野夏子
たとえこのまま春が来てしまっても
あたしに黒が似合うという事実は変わらない
華やいだ色や やわらかな色が
嫌いというわけじゃない
だけどどんな色も
黒ほど的確に あたしを輪郭しない
(妖精のようだと
云ってくださった貴方のために
髪も肌も爪も
出来るだけ傷めずにいましょう)
黒を纏って
冬の街を行くあたしの靴音は
硬質に小気味よく
あたしにだけ刻めるリズムを蒔いてゆく
やがていつしか夏になってしまっても
あたしに黒が似合うという事実は変わらない
(やがてこの背中から
黒い翅が生えて
貴方からさえも
自由になってしまうのでしょう)