四行連詩<着地>の巻:木島始・塔野夏子
(Linked Quatrains - The Cycle of “Landing” by Hajime Kijima & Natsuko
Touno)
木島 始
風景のめぐみ
飛翔ののぞみ
着地のしあわせ
発芽のおどろき
塔野夏子
白い綿毛をかかげ
一度きりの飛行
離陸も着地も
風にまかせて
木島 始
風を迎えいれたっけ
睨みあいしかできない
気づまりな日だまり・・
狎れついてくる鬱屈には
塔野夏子
記憶の遠いところに
かたちも言葉も失くし
ただ日だまりの色に
ゆれている日々がある
木島 始
ついつい憧れるあまり
足が弾みだしてしまう
旅立ち色を何と呼ぼう
朝焼け色?アルファ色?
塔野夏子
アルファ ベータと呼ばれ
明るさを等級づけられ
星たちが苦笑している
ような気がする夜空の下
木島 始
どこかでお会いしましたね
そう言いはる頑なな わたしに
あなたは 苦笑いするばかり
え? 前世の記憶? まさか?
塔野夏子
前世の記憶と
来世の予感とは
深い森のゆりかごの中
よりそって眠る双生児
木島 始
もし 昏々と眠れるなら
よし 懇々と打ち明けよう
どんなに無くした宝が煌めくか
どんなに転んだ道行きが痛いか
塔野夏子
風を待ち
潮を読み
宝さがしの船のマストには
掲げるなら 透明な旗を
木島 始
透明になるまで見つめられると
昇天しない たましいは無い
肉を皮を体面を 脱ぎすてる快さ
いつ どこかを 忘れさる凄さ
塔野夏子
朝ごとに顔に纏い付ける
一枚のうすい衣装
夕刻 それを脱ぎすてると
よみがえるひとつの呼吸がある
木島 始
一呼吸するごとに気づかされる
惑乱の自分に巣くう妄念たち
呼 つまり吐く息を出しきる時には
心をしばし静めうるのが ありがたい
塔野夏子
静められた胸に
いつしか満ちてくるのは
空と海のはざまから
夜明けの手が汲み出す青
木島 始
猛烈に増えつづけるヤツを
やっつける液めを 体内ぐるぐる
回しつづけ 生死のはざまを
潜っているのに あっけらかん
塔野夏子
いつか忍び込みはしなかったか
生まれてこのかた この身体を
回りつづける赤い流れに
月の光か 小さな星かが
木島 始
きっと隠れたリズムを仲立ちに
内部から つながりあうのだろう
体内の赤い流れも 星の運行も
思い描けるかぎりの地獄極楽図も
塔野夏子
かぎりなく とか
はてしなく とか
心は遠くへと飛びたがる
自分という引力に逆らって
木島 始
どこまで自分を知りうるか
旋風にのり舞いあがれば
ごきげんのまま着地もできず
漂う神韻縹渺の筆先き?