雨の宵 塔野夏子 雨の底で 銀色の花がしずかに咲いている しばらく前まで そこにたたずんでいた青年の 憂愁だけがまだ残っていて その波長は 私の意識の波長と いくぶんかは共振し けれどかすかな不協和音をも生んでいる やがて遠くに浮かびあがる灰色の墓標 ひとつ ふたつ そしていくつも 雨に漂うように ゆらいで見える……